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インピンジメントフリーをめざした人工股関節全置換術
~ZedHipを用いた術後ROMシミュレーション解析~
背景
今から約20年前人工股関節全置換術(THA)にナビゲーションシステムが導入されるようになり、トレーシングペーパーによる術前計画が立体視化され設置位置や角度などが三次元的に定義されるようになってきた。
術中支援としても有用な選択肢の一つとなってきた一方で、非常に高額で操作方法も煩雑であることから、限定した施設での使用が中心となっていた。
そこで簡便で汎用性があり、コストパフォーマンスの高いシステムの開発が一般臨床には必要と考えZedHipの開発が始まった経緯がある。
ZedHipは術前計画から術中支援、術後評価まで一貫して臨床医が簡単に行えることを基本コンセプトにしたシステムである。
ZedHipで主に何ができるのか?
- ① 3次元術前計画 (術前CTデータを用いて)
- ② 術中支援
- ③ 3次元術後評価 (術後CTデータを用いて)
ROM simulation
ROM simulation
ステム髄腔占拠率
① 3次元術前計画 | ② 術中支援 (ex. HipCOMPASS ®) |
③ 3次元術後評価 |
- 人工股関節全置換術(THA)を行う際、インプラント同士のインピンジメント(I-I imp)を生じない手術を心掛けている
- I-I impは脱臼や破損などの主要因 (Shon et al. 2005)
- 3次元術前計画ソフトZedHipはTHAにおける術前後で可動域シミュレーション(ROM sim)が可能なソフトである
ZedHipの普及によりTHAにおけるインピンジメントの可視化が容易になった
ZedHipとHipCOMPASS® (LEXI Co., Ltd., Japan)を用いてI-I impフリーをめざし術前計画・術中支援・術後評価を行ったTHAを紹介する
【当院でのTHA】
アプローチ | MIS-ALS |
使用機種 | BiCONTACT total hip system ® (エースクラップ社) 32mm head oscillation angle (144度) |
術前計画 | ZedHip |
術中支援 | HipCOMPASS ®を用いてカップを設置 |
術中確認 | インピンジメントの有無を確認 |
術後評価 | ZedHip |
後療法 | 荷重・動作制限なく翌日より離床 1週間退院のクリニカルパス |
術前計画
- 術前CTデータをZedHipに取り込む
- 寛骨臼側: 原臼位にセメントレスカップをプレスフィット
- 大腿側: セメントレスステムを近位大腿骨軸に平行に挿入
Stem Anteversion (SA): 15度基準面:retrocondylar plane
* SA: ネックと後顆接線となす角をXY平面に投影 -
ただし、Combined anteversion (CA) theoryに準じRAとSAを症例により調整
CA: 30~50度を目標
- ROM simを施行しI-I impがないことを確認して終了
術中支援――HipCOMPASS ®とは?
- カップ設置角度を支援する仰臥位専用の簡易術中支援デバイス
- 両上前腸骨棘幅および恥骨結合からの高さと参照点上の軟部組織厚を用いて術野で前骨盤基準面(APP)を再現、カップ設置角度をナビゲートする
- 設置角度精度(N=97):RA 2.4± 2.2 度(0–13) RI 2.5±1.9度(0–8) (Suda et al. SpringerPlus 2016)
HipCOMPASS ®の実際
a. 軟部厚測定 特殊デプスゲージで参照点を穿刺 |
b. パラメータを入力 RI RA 骨盤高 骨盤幅 軟部厚 |
c. 軟部厚をもとにHCの脚を調整 |
d. キルシュナー鋼線で術野に仮固定 両上前腸骨棘に1.5mm キルシュナー鋼線 で固定 |
e. 方向指示器と平行となるようにリーミングを行う | f. 方向指示器と平行にカップを打ち込み固定する |
術後評価
- 術後1週のCTデータをZedHipに取り込む
- 術後評価機能を用いて設置角度評価
RI, RA, SA
- 術前計画機能を用いて再度術後ROM simを施行
計測肢位: ①屈曲120度②屈曲90内転20内旋30度③内転10外旋30度④伸展30度インピンジメント: 角度 (①と④で最大値を評価)様式 インプラント同士: I-I impインプラントと骨: B-I imp骨と骨: B-B imp
ZedHip による3次元術後評価の実際
①術後評価機能を用いて設置角度評価
図1: 術前骨モデルと術後MPR画像を自動マッチング | 図2: 計画インプラントCADデータを誤差分移動 青線:術前計画 白色:実際のカップ 水色線:CADデータ輪郭 |
図3: 術前計画との差が自動表示 |
②術前計画機能を用いた術後ROM sim
図1: デジタイズ後骨モデルを作成 | 図2: ハレーション修正(上段:修正前 下段:修正後) | 図3: 使用インプラントCADデータをマッチング |
【方法】
検討項目
-
設置角度精度: RI, RA, SA
-
インピンジメント角度: 屈曲と伸展を評価
-
インピンジメント様式: 各割合と部位
【結果】
設置角度精度
本研究 | cf: non-HC used | |
---|---|---|
RI | 3.4±2.6(0~13) | 6.2±6.4(0~34.4) |
RA | 3.2±2.5(0~15) | 8.3±6.2(0.1~24) |
SA | 8.2±6.5(0~36) | 9.3±7.4(0~36.3) |
インピンジメント角度
平均±標準偏差 | 最小~最大 | |
---|---|---|
屈曲 | 118±6 | 66~120 |
伸展 | 29±4 | 4~30 |
*80度以下の2症例 大腿切骨部と寛骨側巨大骨棘及びAIISとのB-B imp |
☆15度以下の4症例 小転子と坐骨との生理的部位でのB-B imp |
インピンジメント様式
様式 | 関節数(%) |
---|---|
imp (-) | 57 (28) |
I-I imp | 16 (7) |
B-I imp | 4 (2) |
B-B imp | 129 (63) |
- I-I imp:
前方インピンジ 13関節後方インピンジ 3関節
- B-I imp:
前方インピンジ 3関節後方インピンジ 1関節*全例残存骨棘とステムとのインピンジ
- B-B imp:
前方インピンジ 44関節後方インピンジ 64関節前+後方インピンジ 21関節*全例母床骨同士のインピンジ
【考察】
7% の症例でI-I imp (+)
I-I impの原因は?
ほぼ9割の症例でステム設置誤差が原因と推察
- 新鮮死体大腿骨標本にて用手的ステム設置誤差は平均10.8度 (Int Ortho 1999)
- ALS-THAではステム前捻誤差が大きくなりやすい (Hip Joint 2014)
仰臥位でのステム設置では前捻角での誤差が出やすい
I-I impの臨床的な意味合いは?
-
生体内で生じることは避けるべき
-
シュミレーションと生体内は全くイコールではない
- 4次元動作解析では蹲踞での平均屈曲角度80度、最大119度 (Sugano et al. Arthroplasty 2012)
- 坐位では骨盤は後傾する (Endo et al. JOS 2012)
- Combined anteversionがインピンジメントには重要である (Dorr et al. CORR 2008)
- THA脱臼症例における透視下動態解析と可動域シミュレーションでI-I impを認め再置換術を施行 (伊藤ら 人工関節学会誌 2016)
<本研究>
- 7%のI-I imp(+)症例も短期経過では動作制限なく経過良好
-
- I-I impをできるだけ生じさせない計画は脱臼予防につながる可能性
骨性インピンジメントは脱臼の要因になるか?
Impingements between the implant neck and cup are
- (1) more likely to dislocate, and
- (2) have a greater propensity for causing damage to the implant compared to impingement
events involving bony members(Jacob ME et al. Iowa Orthop J 2012)
Bony impingement is also an important factor for post-THA stability and for prevention of dislocation.
(Shoji et al. Int Orthop 2013)
本研究
- ① 63%に生理的な骨同士のインピンジメント(+)
- ② 短期経過では脱臼・破損・緩み(-)
ZedHip/HipCOMPASS®を用いてMIS-ALSで行ったTHAでは骨性インピンジメントは問題とならない可能性が高い
本研究の限界
① 可動域シミュレーションが日常生活動作を本当に反映しているか?
4次元動作解析を参考に検証角度を決定
② 骨性インピンジメントの意味は?
- 軟部組織が介在するため骨と骨がぶつからない可能性
- 骨盤や下肢の代償でぶつからない可能性
- ただし、アプローチによっては脱臼の誘因になりえるのでは!?
- 例:後方アプローチで行った前方B-B impは
後方脱臼のリスクファクターとなりうる
- 例:後方アプローチで行った前方B-B impは
③ 経過観察期間が短い
長期の経過観察が必要
【まとめ】
-
THA術後206関節に対し可動域シミュレーションによるインピンジメント解析をおこなった
-
脱臼の要因となりうるインプラントインピンジメントを7%に認めた
-
動作制限なく施行したTHAの短期経過観察ではインピンジメントを認めた症例も含め、脱臼・破損・摩耗などの問題は認めなかった
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